冷え性の女性イメージ

みなさんは、ご自分を冷え症だと感じていらっしゃいますか。
一般的に“冷え”を感じるのは女性に多いとされていますが、男性の中にも“冷え”を感じていらっしゃる方は多くいます。
では、『冷え症』とは、一体どのような状態を指すのでしょう。
また、『冷え症』が私達の健康にもたらす影響とは、どのようなものがあるでしょうか。

マスコミや雑誌等で、頻繁に耳にする『冷え症』。
『冷え症』についての正しい知識を持ち、体質改善が必要な方は、自分に合った改善方法を選択できるよう、今回は『冷え症』について一緒に考えてまいりましょう。

【冷え症の定義】

実は、『冷え症』についての、決まった定義はなされていません。(びっくりですね。)
日本では、昔から「秋茄子は嫁に食わすな。」という言葉があるくらい、冷えは妊娠や体の不調につながると認識されていましたが、西洋においては『冷え症』の概念自体が存在しないとされています。

中村幸代氏による『冷え症』の概念分析¹では

①「冷えている」という自覚がある
②温度較差が大きい
③寒冷刺激暴露後の皮膚温の回復が遅い

以上3つの要因が、『冷え症』を定義づけるものであるとし、『冷え症』とは「中枢温と末梢温の温度較差がみられ、温かい環境下でも末梢体温の回復が遅い病態であり、多くの場合、冷えの自覚を有している状態」と定義づけています。

そうはいっても、どんなことが『冷え症』に当てはまるのかどうか、分かりにくいですね。
そこで、『冷え症』のチェックシートを利用して、『冷え症』とは、どんな状態であるかを知るところから始めましょう。

『冷え症』調査用問診票(寺澤変法)

『冷え症』に関する下記の事項についてあてはまるものがありましたら、番号に〇印をつけてください。

00. 「冷え症」だとは思わない(「冷え症」でない人が〇です)
01. 他の多くの人に比べて“寒がり”の性分だと思う
02. 身体全体が冷えてつらいことがある
03. 腰や手足、あるいは身体の一部に冷えがあってつらい
04. 足が冷えるので夏でも厚い靴下をはくようにしている
05. 他の多くの人にくらべてかなり厚着する方だと思う
06. 冬になると冷えるので電気毛布や電気敷布、あるいはカイロなどをいつも用いるようにしている
07. 冷房のきいているところは身体が冷えてつらい
08. 「冷え」のつらさはここ数年続いている

01~08と内容が重なりますがあてはまることがありましたらいくつでも〇印をつけて下さい。

09. 冬には電気毛布や電気敷布をつかっている
10. クーラーはきらいである
11. 手足が他の多くの人より冷たい方だと思う
12. 夏でも厚手の靴下をはくのが好きである
13. 厚着をするのは好きである
14. とくに冬には身体を丸くして寝るクセがある
15. 冬とか寒い日などは小便がとても近くなる
16. 夏でも熱い飲み物が好きである
17. 他の人よりも自分の顔色は青白い方だと思う
18. 体温がいつも36℃より上にはあがらない
19. 寒い日には関節がこわばったり、痛んだりすることがある
20. 夏でも手が冷えることがある
21. 身体が急にあつくなったり、冷たくなったりすることがある
22. たえず手足に冷えを感じる
23. しもやけができやすい
24. とくに冬には足が冷たくて寝つけないことがある

いかがでしたか?当てはまる項目はありましたか?“冷え”とは、自覚的な感覚なので、自分が自覚しないと、自分に“冷え”があるかどうかは、わかりにくいものです。
私が地元香川でよく思うことは、うどん屋さんに行って夏でも温かいかけうどんを好む人、冬に冷たいうどんを好む人、それぞれいらっしゃいます。
単なる食の好みだけかもしれませんが、体は自然と必要な物を欲しますので、夏でも温かいかけうどんを好まれる方は、もしかしたら、体のどこかに冷えが隠れているかもしれません。

冷え症は、大きく本態性冷え症と続発性冷え症があります。
本態性とは原因がよくわからない事を言い、続発性とは元となる疾患に続いて引き起こされるものの事を言います。
本態性の冷え症には
・自律神経失調性冷え症
・心因性自律神経症
などがあります。
自律神経失調性冷え症とは、自律神経機能が失調することによって血管運動神経機能が障害され、四肢末端の毛細血管が収縮し血行不良がおこり、結果として冷感を感じるものをいい、心因性自立神経症とは、自律神経機能検査では異常は示さないけれど、“心”に原因があることで冷感が引き起こされるものを言います。

また、ただ単に『冷え症』である。と片付けられない場合もあります。“冷え”に重篤な疾患が隠れていないか、確認のためにもしっかりとした注意が必要です。

冷えの自覚的部位の客観的確認

→足の冷えを感じるのに実際に皮膚温が低下していない場合は、冷えを感じるセンサー(受容器)の障害や、中枢神経での温度感覚障害などが考えられるので、脂質異常症治療薬や抗がん剤などの薬による副作用を考慮する必要があります。

足背・後脛骨動脈拍動の確認

→足の冷えの場合、多くは左右両方の足背動脈・後脛骨動脈拍動の触知が困難となりますが、どちらか一方のみが触知困難となる場合には末梢循環障害が疑われ、末梢における動脈閉鎖の可能性も考えられます。血管は、まわりの組織に栄養や酸素を届ける道路ですから、動脈閉鎖がおこってしまうと、組織の壊死につながる恐れもあります。

甲状腺の疾患

→甲状腺機能低下症(橋本病)では、全身のエネルギー生産、代謝、循環器系の調節などを行う甲状腺が自己免疫によって破壊され、甲状腺ホルモンの分泌が低下する疾患です。
症状としては、疲れやすい、便秘、徐脈、皮膚乾燥、低体温、寒がりといった症状がでます。

一般に、“冷え”は体質だから仕方ない。と考えられがちですが、“冷え”は末梢の血管を収縮させ、常に交感神経優位の状態を作ります。交感神経優位の状態とは、どんな時でしょう。私たちには、ストレスや危険がせまった時に、相手と立ち向かったり逃げたりする本能が備わっています。交感神経は、私達の心臓の機能を高め、心拍数を上昇させ、末梢の血管を収縮させて血圧を上昇させようとします。巨大な相手と戦わなくてはいけませんから。そして、体は、ゆっくり排泄物を体外に出している場合ではありませんから消化管の機能はむしろ抑制されます。みなさんの中で、冷え症で便秘の方はいらっしゃいませんか。もしくはいつも下痢をしてしまう方がいらっしゃるかもしれません。
自立神経が調節する自律機能というのは、私達の体にとって、最も基本的で重要な機能です。呼吸、循環、消化、代謝、分泌、体温維持、排泄、生殖など、これらの機能は全て自立神経によって調整されているのです。
一度にすべてを整えるのは難しそうですが、これらの機能のうちの一つ。たった一つを変えることで、上手く回らなくなった体の機能の歯車が、うまく回り出すかもしれません。

たかが冷え症。
されど冷え症。

以上の言葉を合言葉に、冷えについてもう一度考えてみませんか。

引用文献
¹中村幸代 「冷え症」の概念分析 日本看護科学会誌 J.Jpn.Acad.Nurs.Sci.,Vol.30,No.1,pp.62-71、2010
²矢野忠、坂井友美、北小路博司、安野富美子 鍼灸療法技術ガイドⅡ 文光堂 2018.6.20